90代から20代へ―いま受け継がれる伝統の味「手づくり笹巻」

山形・庄内地方の春を代表する伝統食「笹巻」。かつてはひな祭りや端午の節句の時期に合わせて各家庭で作られていたため、これを食べると春が来た!と感じる方も多いのですが、手間がかかるため、近年では家庭で作る機会が減少。さらに作り手の高齢化に伴い、伝統の技も途絶えつつあります。
そんな笹巻の味を絶やすまいと、伝統を受け継ぎ、奮闘する人々に出会いました。

全国屈指の大根農家が笹巻づくりに一念発起

取材に伺ったのは庄内のお米とこだわりの野菜を取り扱う「農園 貞太郎」さん。50品目ほどの野菜を栽培しており、特に主力なのは大根。実は年間約2000tを生産し、山形県内ではNo.1!全国でも指折りの生産量を誇る大根農家さんなのです。

しかし、そんな全国屈指の大根農家さんがなぜ笹巻づくりを?

「大根づくりは6月から忙しくなるのですが、ちょうど2~5月は農閑期なんです。この時期にできることはないかと様々試みていたところ、笹巻づくりに興味を惹かれて作り始めました。」

年を重ねて気づいた笹巻の旨さ

代表の遠藤さんも笹巻を食べて育った一人。幼いころは、鶴岡市櫛引出身のおばあさんが作る黄色い笹巻を食べていたそうです。

「年取って改めて、笹巻って旨い食いもんだなと(笑)
昔から食べていたものだけど、素材の味を楽しめるものがこんなにも身近にあったのか!と、実際に作り始めて再認識したんですよ。」

笹巻の原材料はもち米と灰汁水のみととてもシンプル。だからこそ、素材の旨みをダイレクトに感じることができるのです。

【コラム】同じ「笹巻」なのに味も見た目も違うってホント?

庄内地方の伝統料理「笹巻」ですが、同じ庄内の中でも地域ごとに味や見た目が異なるこをご存知ですか?

庄内地方の南部・鶴岡を中心とする地域では、灰汁水(あくみず)で煮た黄色い笹巻が主流。飴色に輝き、表面のぷるぷるとした食感が特徴です。

一方、庄内地方の北部・酒田を中心とする地域では、灰汁水を使わずに煮るため、白い笹巻が一般的。黄色い笹巻にくらべると粒感があり、しっかりとした食感です。

また、巻き方にも地域差があり、北部に位置する遊佐町(ゆざまち)周辺では細長い角型に仕上げます。

同じ「笹巻」という呼び方でも、地域によって微妙に異なるのが面白いですよね。

伝統の技を受け継ぎ、未来へ紡ぐ

長年笹巻づくりをしてきたばばちゃんたちからバトンを引き継ぎ、新たに笹巻づくりに携わるのは農園 貞太郎の5人。しかも一番の若手はなんと20代の姉妹なんです…!

「まだいぐさを巻くのが難しいんです」
「でも笹巻づくりは楽しいですよ。やりがいがありますね。」

酒田出身の後藤鞠佳さん・茉友さん姉妹。
彼女たちも昔から笹巻は食べていたそうですが、作り方は知らなかったそう。そのため、遠藤さんの90歳にもなるおばあさんから巻き方の指導を受けて、この冬から笹巻づくりに携わっているのだそうです。

90代から20代へ―笹巻の伝統が受け継がれています。

手づくり笹巻ができるまで

シンプルに見えて実は奥が深い笹巻づくり。きれいな笹巻を作るためにはコツがあるそう。後藤さん姉妹に作り方を伺いました。

笹の葉を選ぶ

笹の葉を2枚選び、重ねます。
1枚1枚大きさが異なる笹の葉。幅が狭いとうまく作ることが難しいので、できるだけ幅広の笹を選ぶのがポイントだそう。

もち米を入れる

円錐状にくるりと笹を巻き、なかにもち米をいれます。

使っているもち米は「でわのもち」。もっちりとした食感で、味に深みがあるのが特徴です。庄内地方以外ではほとんど栽培されていない、希少なもち米です。

笹の葉を折って三角形に成形する

ぱたんと笹の葉を織り込み、きれいな三角形になるよう成形します。
ぎゅっとしすぎても、ふんわりしすぎても形が崩れてしまうため、力加減が難しいそう。

いぐさで紐をかける

くるりといぐさで紐をかけると笹巻の形に。

当初は人によって笹の巻き方や紐のかけ方が違っていたそうですが、後藤さん姉妹を中心に同じ規格で巻くようにしたとのこと。
とはいえ、巻き手によって微妙に仕上がりが変わるのもおもしろいところ。手仕事ならではの温かみが感じられます。

灰汁水で煮る

巻き上がった笹巻は、3時間ほどかけてじっくりと煮込みます。

お湯が冷めるまでおいておけば、ぷるぷるとした笹巻のできあがり。

黒蜜と特製きなこで召し上がれ

きな粉には庄内町跡地区産の青大豆「黒神」を使いました。豆の風味が豊かで、知る人ぞ知る絶品きな粉なんだとか。

味付けはお好みで黒蜜や砂糖を加えても◎。たっぷりとつけて召し上がれ。

庄内の春の風物詩を今年も

ほのかな香り漂う笹の葉を開くと、プルンとした淡い黄色のわたび餅のような姿。特製のきな粉と黒蜜をたっぷりとつけてほおばると、もちもちっとした歯ごたえと、独特の香り、もち米の柔らかな甘さが口いっぱいに広がります。

素朴でいながら上品な和菓子のような伝統料理「笹巻」。
「この味を残したい」と願う若い作り手たちの想いとともに、今年も故郷の懐かしい味わいをお届けいたします。

この記事で紹介した商品はこちら

〈2023年リニューアル〉手づくり笹巻

ばばちゃんたちに支えられ販売していた「手作り笹巻」がリニューアル。後藤さん姉妹をはじめ5人の作り手が伝統の技を受け継ぎ、ひとつひとつ丁寧に作りました。ぷるぷる食感のどこか懐かしい味わいを絶品きな粉で召し上がれ。

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