山形の手仕事
山形に多く伝わる手仕事の数々。地域の暮らしの中で培われてきた「ものづくりの文化」は、コストや生産性を追及する現代ではあまり手に取る機会が少ないもの。
そんな時代、伝統的な色を残しつつも、新しさや美しさを感じる作品を生み出す工房を訪ねました。
将棋の聖地で駒を作る 小さな木工所
木の香りに囲まれて、静かな紙やすりの音と共に駒の角が取れていきます。
黙々と木を削る手の中で飾り駒が出来上がっていく様子が、何とも美しい作業風景です。
鶴岡市から車で約2時間。将棋の町として知られる天童市で小さな木工所を営む「佐藤工芸」。
ここで天童市独特の飾り駒「左馬」を作る、代表取締役の高橋裕子さんからお話を伺いました。
天童市独特の縁起物「左馬」
「天童の将棋駒作りは約200年前、困窮していた武士の内職から始まりました。将棋は兵法戦術に通じるから武士が駒作りをしても恥ではない、ということで受け入れやすかったようです。」
今や天童市の将棋駒生産量は全国の9割以上を占めているといいます。やがて将棋駒は遊戯としてだけでなく縁起物としても扱われるようになり、中でも「左馬」が書かれた駒は富や商売繁盛の象徴として喜ばれ、新築・出産・開店祝など、様々なハレの日のお祝品として活躍しました。
伝統の飾り駒に新しさを
昭和までは需要が多かった飾り駒ですが、今は家の内装も変わり、伝統的なデザインが合わなくなってきた、と高橋社長は語ります。
「そこで、県内のデザイナーさんにご協力いただいて、現代のインテリアに合う飾り駒を作ったんです。」
可愛いでしょう?と手渡された駒は手のひらにすっぽりと収まる小さなサイズで、色鮮やかな左馬の文字が印象的です。
「名前は『左馬NEO』です。NEOには新しいという以外にも、復活やリニューアルという意味もあります。年々製造が減少している飾り駒に、復活という想いを込めて名付けました。」
なめらかな白木の駒の横からのぞく縞模様は、和紙とシナの樹を重ねたペーパーウッドという素材でできており、独特で美しい質感を見せてくれます。
「文字を大まかに彫るところ以外は全て手作業です。実は『王将』のNEOもあるんですが、文字数が多くて研磨が大変、と工場的には不評なんですけど…。」
と打ち明けられた裏話に笑いつつ、
「和風、洋風、どちらのお家にも馴染むデザインなので、ぜひ手に取って飾り駒の良さを感じてほしいです。」
という言葉に地元の文化への愛情を感じます。
今までを大切に これからを模索する
日本のお土産として海外のお客さんにも人気だと言う左馬NEO。
フランスでショップを開いている方からの依頼で、新たに展開したアジアンカラーのシリーズ「一閃」も加わり、一層の賑わいを見せる佐藤工芸の飾り駒。天童の駒文化を廃れさせまいと新しい形を模索する姿に触れ、さて、我が家にはどれを迎えようか…と多彩な色で私を見つめる左馬NEOを前に、頭を悩ませるのでした。
可愛らしい手の平サイズから発される確かな歴史の重厚感。ぜひ皆様もお手に取ってみてください。
最後に… 左馬NEO ~Q&A~
飾る場所は決まっていますか?
昔は「転ばないように」というゲン担ぎで床の間や玄関に飾られていました。今はインテリアとしての意味合いが強いので、お好きなところに飾っていただければと思います。
今後作りたいものはありますか?
うちの商品は手造りの品が多いのでどうしても値段が高くなりがち。
もうちょっと皆さんが手に取りやすい安価な商品も作っていきたいなと思っています。