伝統と革新と。海外観光客も興味津々!鶴岡の漬物文化

こんにちは、清川屋です。清川屋では今年から、山形大学農学部の学生さんと一緒に「鶴岡の食文化を知ろう!」というテーマのもと、取引先の農家さんや企業へ伺って理解を深める活動をしています。
第一回目は鶴岡市大山にある老舗漬物店・本長さんにご協力いただき、漬物蔵を見学させていただきました。


老舗漬物店「本長(ほんちょう)」とは

明治41年、鶴岡市大山地区に創業した「本長(ほんちょう)」。
「庄内の自然の恵みを生かし、皆様の豊かな食文化の創造の貢献します」を社是とし、地元山形県産の野菜や庄内地方の酒粕を使うなど、地元の野菜にこだわりを持った漬物づくりを続けています。
在来野菜を使った漬物の数は山形県内随一!特に200年物の木樽で漬け込んだ野菜の粕漬は本長の看板商品です。


本長さんの漬物蔵、いざ見学!

快晴のもと、歴史ある本長さんの漬物蔵の見学をさせていただきました。
今回の見学では本長3代目である会長さん直々にお話を伺うことができました。なんとありがたい。

会長さん直々に案内いただきました。学生さんたちもメモを取り真剣です。

今回見学させていただいたのは本長さんの漬物蔵です。

中に入るとたくさんの大きなタンクが。早速漬物桶!?と思いきや、こちらは粕漬専用のタンクとのこと。


「毎年1月~4月頃にかけて搾りたての酒粕が酒屋さんより届きます。
届いてすぐは、発酵前なので、「かたく」手になじまず、「味」も漬物用としては乏しく、すぐには使えません。
そこで暑い夏はクーラーを入れてこのタンクの中でじっくり夏を越して発酵、熟成させて、程よくやわらかくなり、甘さ、うまさ、アルコールが搾りたての数倍に達した秋口の10月、11月頃より使用するようにします。
発酵、熟成期間が長いことがこだわりです。」


とのこと。発酵、熟成期間に半年以上。この長さが美味しい漬物を作るのですね。

さらに進むと、なんとも趣を感じる大きな桶が現れます。漬物用の桶です。
これは1798年(寛政10年)に作られた漬物用の木桶!なんと220年以上経ったいまでも現役で大切に使われているのだそうです。

新しい木桶はないのですか?との問いに、
「高齢化でね、こういった木桶を作る職人さんが減ってなかなか手に入らないんだよ。だから最近はプラスチック製のものを使っているんです。」
「木桶に比べるとプラスチック製は軽いし衛生面での管理もしやすいし、メリットがあるんですよ。とはいえ、伝統の木桶には木桶のよさがある。いまあるものは大切に継承していきたいと思っています。」

ちなみにこの木桶では伝統の古漬けを作っているそう。
学生さんもこの木桶の話が響いたようで、様々な感想や意見が寄せられていました。

山形市出身の学生さん

木桶のお話を聞いて、高齢化と後継者不足は私たちが普段勉強している内容の中心である農業に関わらず、どの業界でも進んでいることであると感じました。

福島県出身の学生さん

木桶を作る職人がいなくなってきているという話を聞き一つの技術が消えようとしていることを知りました。
このまま木桶をなくしてプラスチック製のケースに移行するべきなのか今の自分には判断することはできないが技術が消える可能性ついて今一度慎重に考えるべきなのではと感じました。

地元の野菜、特に在来野菜を使ったお漬物に定評のある本長さん。
原料にこだわるということは、その原料が育つ産地、栽培方法、作り手にも心を寄せることが大事――

本長さんの甘酢漬に使われている伝統野菜「あつみかぶ」「藤沢かぶ」は焼畑栽培と呼ばれる独特の農法で栽培されています。
毎年8月頃、焼畑づくりのために“山焼き”を行うのですが、この火入れに本長の会長さんや社長さん、男性社員の方が参加。お手伝いを通し、焼畑農家さんの苦労を実際に体験しているのだそうです。

温海地区の焼畑栽培は江戸時代から続くもの。近現代では衰退傾向にあり、いまは全国約20地域でのみ行われています。特に温海地区の焼畑栽培は、林の伐採と植栽のサイクルに沿った農法として注目されているのだそうです。

海外の方にこの焼畑栽培を説明すると、
「昔から続く作業工程を今も変わらず継承していることが素晴らしい」「灰を肥料にするとは、なんてエシカル(=自然環境に配慮した行動)なんだ!」と感心される方もいらっしゃるようですよ。

本長さん自慢のお漬物の試食もさせていただきました🙌
赤かぶの甘酢漬けや古漬、外内島きゅうり(とのじまきゅうり・鶴岡の在来野菜)のピクルスのほか、クリームチーズを漬け込んで作ったという「蔵王チーズ粕漬」なんて逸品も!
伝統的なお漬物ばかりでなく、これがお漬物なの!?と思うような、新しい発想のお漬物も開発されていることに驚かされました。

「みりん漬」秘話に見る、本長さんのグローバルでユニークな視点

本長さんの商品の中に、缶詰に入ったお漬物「みりん漬」があります。
このユニークなお漬物、実は本長の創業者である本間長右衛門氏が大正5年(1916年)に缶・壜詰め機械を設置して完成させたもの。なんと100年以上前に、長右衛門氏が海外輸出を視野に入れて開発したものなんです・・!
みりんを加えることで長期保存が可能になったというこの商品。実際にこのみりん漬はハワイやアメリカ本土に輸出していたそうです。

本長さんは創業当初からグローバルな視点でお漬物づくりをされているんですね☺

さらにこのみりん漬には逸話が。
長期保存ができる=非常食にも最適とあって、2011年の東日本大震災の折、内閣府の要請でいち早く被災地へ発送。そのことが評価され、当時の農林水産大臣より感謝状をいただいたそうです。

当時の農林水産省大臣からの感謝状。保存に優れていることもあり、大変重宝されたそうです。

海外の見学者が感動した、本長さんの心意気

コロナ禍以降、2024年になってから今までゼロだった海外からの個人観光客が漬物蔵見学にやってくるようになったのだそうです。アメリカ、フランス、インドに韓国など、欧米やアジア圏など様々な国の方がいらっしゃっているのだとか。
わたしたちが見学に訪れたのは午後だったのですが、ちょうどその日の午前中に見学に来た方もアメリカ人のご夫婦だったそうです。

「実はそのご夫婦が蔵見学の際、涙を流して感動していて・・」と会長さん。

・東日本大震災の折、被災地にいち早くみりん漬を送って感謝状を頂いたこと
・あつみかぶの焼畑栽培を、社長さんや会長さん、本長の男性社員みなさんが手伝っていること
本長さんのそんな姿勢、行為に心を打たれ、感極まった様子だったのだとか。
また、本長さんは家族で繋がってきたファミリーカンパニー。日本では決して珍しくない経営スタイルですが、ご夫婦曰く「ここまで続くファミリーカンパニーは外国にはない」と、とても評価していたそうです。

さらに、蔵見学の折に台所や居間、仏壇、庭の池の鯉、木造の店舗や大黒柱の佇まいに「通常の観光では見ることのできない、日本の家庭を垣間見れた」と感動されたのだそう。
帰り際には「末長い繁栄をお祈りしています」と仏式に手を合わせてご挨拶をしてくださり、会長さんもそれに倣って手を合わせて見送ったそうです。

「通訳は鶴岡に住む若い通訳の方(海外ご出身)にお願いしているので、私は日本語で説明しています。今回感動を呼んだのも、この方の素晴らしい通訳のおかげですよ(笑)」「海外の方の見学も増えてきているので、いずれは原料の野菜だけでも英語で話せれば…と思っています。」

若者にも支持されるような“新しい漬物”も作りたい

本長さんのお漬物、というと、清川屋のカタログに掲載される季節のお漬物の詰合せや、冬の寒風菜のお漬物などがお馴染みかと思います。
清川屋ではいわゆる昔ながらの懐かしいお漬物をご紹介することが多いのですが、実は本長さん、古いものを大切にしつつ新しい要素を取り入れたお漬物を作ろうとチャレンジされている企業なんです。

「伝統野菜を使ったピクルスとか、洋風のお漬物も作ってみたいですね。お漬物=和食、というイメージですが、洋食にも合う漬物なら、普段あまり漬物を食べない若い方も食べてくれるかなと。」

地元の伝統野菜を使うという芯は通しつつ、時代の流れをいち早くキャッチし、新たなエッセンスを加えたお漬物づくりをしようとする姿勢。ブレない、けれどしなやかな考え方。お漬物屋さんは伝統を守ることに忠実・・という勝手なイメージを持っていましたが、今回お話を伺ってみて、本長さんは思っていた以上に革新的、行動力のあるお漬物屋さんなんだなと感じました。

魅力ある食文化を通じて鶴岡を知る

今回の蔵見学を受けて、山大の学生さんたちもいろいろと学びがあった様子。見学してみての感想、考えたことを抜粋してご紹介します。

南陽市出身の学生さん

鶴岡市にある歴史ある店舗で食文化に触れることで、自分の知らなかった知識を知ることができました。また、まだまだ鶴岡市の知らない食文化や食べ物がたくさんあることを知り、どんどん鶴岡を知っていきたいと思えました。

山形市出身の学生さん

私の祖父が鶴岡の田川というところで田川カブというものを作っていたのですが、そのカブが本長さんの商品にも使われていたと知り、祖父のカブ作りを詳しくは知らなかったのですが、商品として地域の伝統あるお店で扱われていたことがうれしく思いました。

福島県出身の学生さん

本日の訪問を経て、若者の漬物離れとは言うが、漬物自体が嫌いなのではなく、自分で買って食べる習慣がない点に問題があると感じました。
実際に試食させて頂いて確信したのは、漬け物の味が敬遠されている訳ではないと言う事です。やはり漬物は美味しいです。

個人的に一人暮らしでも消費出来る量、買ってすぐに食べられる状態であれば購入のためのハードルが下がるのではないかと考えました。

中国・海南省出身の学生さん

ご飯は日本料理の主役としたら、漬物は日本料理の脇役です。日本料理に慣れている日本人の方々にとって、漬物はたいしたものではないですが、ないと何か欠けているように感じるかもしれないと思います。しかし、食事の多様化にしたがってご飯の消費量が減少してきたとともに、漬物の消費量も右下になっています。

このような現状に応じて、伝統的な漬物を守ると同時に様々な食事に合う新しい漬物を開発する必要があると思います。
例えば、焼肉のような脂っぽい食事に合う漬物とか、西洋食にも合える漬物とか、晩酌或いはお酒の品種ごとに合う漬物を開発することです。

鶴岡の企業や農家さんを伺い、鶴岡の食文化を紐解く山大農学部さんとの取り組みはまだまだ続きます。次回は鶴岡市の老舗酒蔵さんを訪問する予定です。
こちらでもその様子をレポートできればと思いますのでどうぞお楽しみに☺

この記事で紹介した商品はこちら

山形のお漬物

定番のお漬物から、伝統野菜を使ったお漬物やその季節でしか味わえないお漬物まで。
老舗本長さんのお漬物はもちろん、山形・庄内のお漬物屋さんの逸品を豊富に取り揃えています。
季節限定品も多いので要チェック!山形のお漬物文化を楽しんでみてはいかがでしょうか。

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